かなざわ 美かざり あさの

生まれ変わった空間は、北陸の若手工芸作家のセレクトショップになっています。

かなざわ 美かざり あさの/一般住宅より茶屋建築の復元

今あるものを守るだけでなく、かつてあったものを復元する

M邸のご主人との出会いは、20年以上前のことでした。その頃Mさんは料亭を営んでおり、ご自身も評判の料理人でした。食用金箔のカタログ用の写真が必要となり、撮影に使う料理を依頼しました。終わった後には、料理を美味しくいただいたりしたことなどから、交流が生まれ、お付き合いが続いていました。
しばらくして、Mさんがお店を閉めることになり、ご自宅も手放すことになったと、連絡をいただきました。
物件を見せていただいたとき、二階の窓から見える景色が、印象に残りました。
茶屋街の通りをまっすぐに見渡せ、その先には卯辰山まで遠望できる。この景観を生かせば、魅力的な空間を作れるのではないか、そう直観しました。
物件は、メインストリートから一本入った裏通りです。当時は、景観にそぐわない建物も散見されました。そんな中、この物件を引き受けるにあたっては、「東山ひがし重要伝統的建造物群保存地区」として定められたルールにのっとることはもちろん、それ以上のものを作りたいと考えました。それは、かつての姿の復元です。当時のM邸はすでに現代的な住宅でした。ですが、その前には茶屋様式の建物があったはずです。資料を探したものの、図面や外観を示すものは見つからず、最終的には、周辺の茶屋建築を研究して、それらの様式を踏襲しながら、在りし日の姿を推測してプランを作りました。

いま、店の中心には、大きな階段がしつらえられています。ここを上ると、2階の広間から、風情ある街並みを見渡せます。この景色が、この店の大きな魅力にもなりました。
この復元を手掛けた時期は、保存地区指定からまだ数年という頃でした。北陸新幹線もまだなく、ひがし茶屋街も今ほどは注目されていません。地域には、「保存」についての意識は高まりつつありましたが、「復元」ということになると、まだまだ取り組みが少ない時期でした。今あるものを守るだけでなく、かつてあったものを復元していく。そうした事業として、一つのきっかけにもなった物件でした。
改装前の写真。建築物としてはしっかりしていたが、周囲とはなじまない佇まい。
内外装ともに大幅な改修を。文献などをもとに、かつてあった姿に復元をした。