日独の文化が融合して生まれた照明。

世界的な照明ブランド「インゴ・マウラー」の定番ライン「カラット・ブルー」。ここには、金箔がたいへん印象的に使われています。この商品が生み出された背景には、若いドイツ人デザイナーとの出会いがありました。そのいきさつについてご紹介します。
 

金箔を印象的に使った、美しい照明。

インゴ・マウラーは、「光の詩人」とも称される伝説的な照明デザイナーです。 本人が創設したドイツの照明メーカー「インゴ・マウラー」は、世界中の建築家やインテリアデザイナーを中心に高く評価をされています。 それらの作品群の中でも、ひときわ個性を放っているのが「カラットブルー」のシリーズです。これは2005年に発表されて以来、定番として同社の重要なラインナップの一つとなっています。ここには、金沢の伝統工芸である、金箔が重要な役割を果たしています。
 

若きデザイナーによって生み出された作品。

「カラットブルー」という名もまた、金箔に由来するものです。シリーズ名にあるカラットとは、金を測る単位のこと。またブルーは、金箔に透かすと光が青く見えることからとられています。 この作品を生み出したのは、気鋭のデザイナーとして知られるアクセル・シュミット氏です。

 

箔一に訪れた、若き日のデザイナー。

このシュミット氏と箔一には、ご縁がありました。 彼がまだ若く、シュツットガルトデザインセンターの研修員だった頃、日本のものづくりを学びたいと、人を介して当社に問い合わせがありました。ものづくりの現場に入り、工芸を学びたいというのです。私たちは、ヨーロッパの若いデザイナーに金沢箔を知ってもらう機会にもなると、協力させていただくことにしました。

ドイツから届いた、一通のメール。

シュミット氏は、日本文化への深い敬意と旺盛な好奇心をもち、箔のことを熱心に学んでいました。このとき、独自に照明の試作に取り組んでいたこともあり、滞在期間は、数か月にも及びました。 やがて彼はドイツに帰っていきましたが、数年も経ったころ、久しぶりにメールで連絡がありました。彼が担当して、金箔を使った新たな照明を作りたいというのです。聞けば、帰国後、インゴ・マウラーで新商品を任せられるほどのデザイナーになっていました。
 

箔一で得た学びを、
照明のデザインへと。

シュミット氏は箔一に滞在していた期間、言葉や文化の壁を越えて職人たちと混ざりあい、金沢箔工芸品作りに取り組んでいました。限られた期間の滞在でしたが、私たちには仲間としての絆も生まれていました。その後、彼はドイツに帰り、第一線で活躍するプロのデザイナーになりましたが、その時の想いをずっと大事に持ち続けていてくれたようです。彼が箔一で感じた金沢箔の素晴らしさや歴史、作り手の技術や想い。そういったものを本当に理解していたからこそ、長い時間を超えて、また私たちに相談を持ち掛けてくれたのだと思います。
 

国境を越えた、人との縁を感じたプロジェクト。

正式に採用が決まるとすぐに、試作をはじめることになりました。図面はもう出来上がっていました。ただ、日本とドイツ。文化の異なる中で、仕事を進めることに困難もありました。言葉の違いもありますし、規格の違いも小さくありません。工業規格は日本はJISですが、ドイツにはDINというものがあります。微妙な違いではありますが、高品質のものを作るには、その小さな差も大きな障害となります。デザインコンセプトを実現していくことはもちろん、こうした細かな違いを翻訳していくことにも苦労をしました。 インゴ・マウラーの「カラットブルー」は、こうして生まれた作品です。 若いデザイナーが日本の伝統文化に興味を持ち、数ヶ月もの間、箔づくりの現場に入って真剣に学び、その経験をもって、数年の時を経て新しい作品のアイデアとして形にしました。私たちとしても、国を超えた人の縁を感じるプロジェクトでした。