街づくりへの想い
Thoughts on town planning
2020年7月21日 金澤しつらえ やなぎ庵にて

街づくりへの想い 対談 林 茂  様

金沢東山・ひがしの町並みと文化を守る会 副会長
※役職は2020年7月時点のものです

聞き手:浅野達也(箔一 代表取締役社長)

志を同じくする仲間と、次世代の街づくりに取り組みたい。

林さんは、「金沢東山・ひがしの町並みと文化を守る会(以下、守る会)」の副会長としてはもちろん、若手のリーダーとして、次世代の人たちを良くまとめてこられました。林さんは、いまのひがし茶屋街について、どう感じていらっしゃいますか?

私は、ずっと町会の青年会長もやってきました。前はね、青年会といっても、名前だけで活動なんかほとんどなかった。付き合いもないから、町ですれ違っても、挨拶もしない。これじゃあかんやろ、ということで、一人ひとりと顔を合わせて話をしていった。それで、だいぶまとまりが生まれてきたと思っています。

林さんは、上の世代と次世代をつなぐ、パイプ役も担ってこられた。ただ、今のこの街では、歴代の守る会会長さんたちの存在感がすごく大きい。そのせいか、若い人たちの顔が見えにくくなっている気もしています。

私は、歴代の方々の聞き役にもなっているんです。いろんな話を聞いてきました。先輩達はみな厳しいから、耳の痛い話も多いけど、そうやって街を作ってきた人たちだから。存在としては大きいですよ。

我々は、少し客観的にみられる立場だからかもしれないけど、上の世代の方々は、すごく素直に話をしてくれる。むしろ、伝えたいことがたくさんあって、まだまだ話したがっているようにも見えます。

浅野さんは、街の重鎮の人たちと、本当によく付き合ってきたと思う。こまめに顔を出して、運転手までしたりとかね。そんな時期もありましたよね。

仲間として認めてもらうために必死だった、というのもあるけど。でもね、全く嫌な思いはしなかったですよ。みんな粋な人たち。腹をわって話してくれるし、何事もストレートに言ってくれる人たちだった。生き方としてかっこいい、と思っていました。

町内の人間は、距離が近いんだよね。幼馴染だったり、親同士の付き合いもある。だから、逆に言いにくい部分もあるのかもしれない。でも(現会長の)中村さんや(前会長の)長瀬さんとは、本当によく話をした。親父の世代だからね。息子のようにして接してくれたし、いろんなことを教えてくれた。

林さんは、私たちの話もよく聞いてくれた。それが本当にありがたかった。町内の人でありながら、企業の人間にもいつも理解があったから。

この街を守るためにも、地元企業との協力が大切

この時代になってもね、いまだに企業の人たちが町に入ってくるのを、あまり良く思わない空気もあるんですよ。本来は芸妓の町だから。しょうがない面もあるかもしれない。でもね、空き家が出たとき、どうするの。ほっとくわけにもいかないし、なんとかするなら、企業の力を頼るしかない。だから、ここで生まれて育ったかとかじゃなくて、街のことを理解してくれる人ならね、同志だと思って一緒にやっていこう、という気持ちを持つことが大事だよね。

私たちは、町の人たちに常に筋は通してきました。いま所有している物件も、古くて大幅な改修が必要だったものばかり。中には、倒壊しそうなところもありました。修繕するにも大きな費用がかかるから、なかなか引き受け手も少ない。そういう困っているところから声を掛けられ、街の景観を守るために直してきた。やるだけのことは、やってきたという思いもある。

本当に、それはそのとおり。あんなにきれいにしてもらってね、私は感謝しているし、街としてもそこはありがとうと言うべき。だってね、空き家のままだったら、変な企業が入ってくる可能性もあるわけだから。

実は、外の資本が入ってくるというのは、大きな問題なんです。私も、国内の観光地をずいぶん視察に行った。有名な観光地の中には、その土地の企業がほとんどないというところもある。大手資本が買い占めてしまって、地元の人がやっているのはレジ打ちだけ。そうすると、店がどれだけ儲かっても、利益は本社に吸い取られていく。地元がまったく潤わなくなってしまうんです。それではいけない、という思いは強くもっている。

そう。それに、実際にややこしいところが入ってきたとき、町内の人たちだけで、それに太刀打ちできるか、というのも難しい。以前、強引に出店しようとしたところともめた時も、力のある人たちがいたから戦えた。あの人たちがいなくなったとき、俺たちだけでやれるのか、というのは常に話し合っていること。

企業というのはしたたかですよ。ルールを作っても潜り抜けてくるし、一回入ってしまったら、追い出すこともできない。国内だけじゃない、海外資本だって狙っているかもしれない。そういうところから町を守るためには、予防する術を持たないといけない。

いままででも、私たちとして不本意なものを認めてしまったケースもある。ファストフード的なものとかね。それも、事前の説明があまりにない中で、強引に通されてしまった。そうしたケースだっておこる。規律を守るためには、皆が気持ちを強くして、声を出し続けないといけない。

ひがし茶屋街のルールは、ほとんどが自主規制。罰則を設けて、強制的に守らせるということができないから、結局は出店する側のモラルが問われる。

それでも、浅野さんは、きっちり守ってくれている。それは本当にありがたいし、そういう企業こそ尊重したい。町の人たちにも、いろんな人間関係があるから、言いづらい部分だってある。それも現実。でも、ファストフードを認めてしまったり、安易に例外を作ってしまうと絶対に後悔することになる。

難しく考えず一緒にお酒を飲むようなことが、もっとあっていい

お互いに守るべきことはきちっと守るという意識が大切です。

だから、意識の高いところと組んでいくべきなんです。私たちも、考え方を変えなきゃいけない。本当にこの街を守りたいのなら、守れるだけの力を持たなきゃいけない。じゃあ、力があるのは誰なのか。この街に縁があっても、個人事業主や小規模の企業体ばかりでは、太刀打ちできない相手もいる。しがらみで、ルールが曲がることだってある。それなら、大きな企業さんの中でも、きちっとやってくれるところ、同じ志を持ってやれるところを巻き込んでいったほうが、この街を守ることにつながっていく。

古い建物には、修繕は必要だし、費用が掛かるから個人では抱えきれないケースもある。放置すれば廃墟になるし、不本意な企業に買われる可能性もでてくる。だから、地元の有志企業が所有するのは、この街を守る意味でも有効だと思う。そのうえで、活用の仕方や、店子については、街の人にゆだねてもいいじゃないか、とも思っている。

これまではね、守る会は、歯止めをかけるだけの役割だった。出店したいという企業を審査して、イエスノーをつけるということをやっていた。でもね、これからは、理想の街づくりを掲げて、そのためにはどんな企業に入っていただくのがふさわしいか。そういう考えで、こちらから誘致してくるような、そんな動きだって必要になる。

何か月に一回でも、集まってお酒を飲むだけでもいい。町の人たちは、林さんに集めてもらって。企業の人たちは、こっちで声をかけて。お茶屋さんに行ってもいいじゃないかと思う。難しく考える必要は、全くないですよ。

そうですね。それに最近はね、上の人たちも変わってきている。昔はもっと保守的だったけど、今では企業の人たちとも一緒にやっていきたい、という考えの人も増えています。だから、これから変わっていくと思いますよ。

金箔は、ひがし茶屋街に欠かせないものになっていく。

金沢の文化、ということで言えば、私たちはずっと金箔というものを広めてきた。地元文化の一翼を担ってきたという自負もあります。金箔も茶屋も同じ地域文化。お互い、それを担ってきたものとして、良いお付き合いができればと思っています。

金箔はね、まさに金沢の象徴だから。私は、今では金箔が、ひがし茶屋街の個性のひとつになっていると思うんです。ここにこういう輝くものがあるということは、大きな価値を生んでいる。これは、絶対になくならない。

だからこそ、大切にしないといけない。なんにでも金箔をのっけて、これで金沢の文化です、というのじゃだめだと思っています。

本物じゃないとね。良いものを提案して、そのストーリーが茶屋街に残っている、と。そうやっていけば街の魅力になっていく。特に、この新型コロナウィルスの状況になって、ますますそう思うようになった。今は、本物じゃないと残れない時代だから。

私たちも、これまで忙しくさせていただいてきたが、緊急事態宣言が出された後には、立ち止まって考える時間ができた。状況を見ながら、慎重に店を再開した。そうしたら、今まで来ていなかった地元のお客さんが来てくれた。その時にね、地域の文化と言いながらも、地元の人から離れてしまっていた面もあったと実感した。

これまでは、地元の人は、混雑していてなかなか来られなかったからね。そんな人たちに、もう一回、この街の魅力を知ってもらう良い機会になった。それに箔一さんが、店を開けてくれたおかげで、街が明るくなった。その努力をしてくれたというのはね、街の人たちにももっと理解してほしい。

正直、店を再開した直後なんかは、売り上げもほとんどなかった。それでも、街に元気を取り戻したいという気持ちで、決断したことだった。

箔一さんが、まだ人通りの少ないときから営業再開してくれたのは、本当にうれしかった。これで茶屋街にも日常が戻ってくるんだというのを、目に見える形で示してくれた。お店がやっていれば、来てくれた人にも楽しんでもらえる。

そう言ってもらえるのは、本当にありがたい。店を開ければ、お叱りを受ける可能性もあった。経営者としては、そこは賭けみたいなものだったから。

だから、俺は、企業の人たちをもっと大切にしたい。しなきゃだめだと常に言っている。町内の人かどうかじゃなくてね、同じ志を持てるかどうかで考えていく時代になるでしょう。

企業のトップというのは、個性が強い人間が多い。ほっとけばなかなかまとまらないが、課題さえ設定すれば、その課題を解決するために役割分担することはできる。幸いにも、私たちも、経営者との様々なネットワークを持っている。そういったものも生かして、もっとこの町に貢献していくことはできる。

時代は変わってきている。歴史を大切にしていくことは大前提だけど、もっと広い範囲の人たちを巻き込んで、次の茶屋街の在り方を一緒に考えていきたいですね。

まずは、一緒にお酒でも酌み交わしながら、お互いの思いを話し合いましょう。
今日は、本当にありがとうございました。