作業を分解して、必要な機能をリスト化する。
箔打ち紙の生産を機械化しようと、全国から使えそうな機械を探しました。もちろん「箔打ち紙用の装置」などこの世に存在していません。大切なのは、必要な機能を備えているのは何か、ということでした。箔打ち紙の生産工程は、単純化してしまえば、和紙を溶液に浸し、乾かし、重ねる。ということです。こうした機能を兼ね備えているものを求め、まずは業務用の乾燥機をベースに開発を始めることとしました。
手作りを残すための、合理化という考え方。
当時は、箔打ち紙は職人に手作りされていました。それも、工房ごとに作り方が違っていました。こうした手作りの仕事にも、良い面はあります。金沢箔の輝きや軽やかさは、手作りならではのもので、これは守っていかなければなりません。一方で、全てが昔ながらのやり方では、生産性は向上せず、時代の波に取り残されていくでしょう。残すべき手作りは残す。そのためには合理化すべきところは思い切って合理化する。私たちは、そうした信念がありました。
箔打ち紙によって、伸ばされていく金箔。
箔打ち紙のことを理解するには、まず金箔が延びていく過程を知る必要があります。金箔は金を叩いて伸ばしていきますが、ある程度まで薄くなってしまうと、叩いても伸びなくなります。1万分の1mmにまで延ばすには、箔打ち紙が必要なのです。箔打ち紙は、伸び縮みする性質を持っています。箔打ち紙と金箔は接していますので、箔打ち紙が延びれば、金箔も引っ張られて一緒に伸びます。よい箔打ち紙は伸縮性が良く、箔をきれいに伸ばしてくれます。ちなみに、使い続けると箔打ち紙はやがて伸びなくなりその役割を終えます。これを「ふるや紙」といい、かつては芸妓さんの化粧紙になっていました(※)。これが、現在のあぶらとり紙の元になったものです。
※かつては、使い終えた箔打ち紙を化粧紙として使っていました。現代では、あぶらとり紙は衛生管理された専用の施設で作られており、安全で衛生的なものとなっています。
最適な方法を追求して、地上7mもの高さに。
箔打ち紙は、伸縮性を持たせるために、柿渋や卵白、灰汁、カーボンなどの溶液に紙を浸して作ります。この製造機では、紙を垂直方向に巻き上げながら乾かしていきます。紙が巻き上がるまでには、乾燥が終わっていなければなりませんが、急いで乾燥させると、縮み・よれなどの原因にもなります。また溶液に漬けた紙は重くなるため、破れてしまうこともありました。ゆっくりと乾かし、乾ききった直後に巻き取られていく。その最適のタイミングを追求する中で、最終的には垂直方向に7m近く巻き上げるという方法となりました。最初の工場に入れるときは、あまりに大きすぎたため、天井に穴をあけて設置をしました。
50倍にも上がった生産性。
製造を自動化したことで、箔打ち紙の生産性は50倍も上がりました。また品質も安定したことから、金沢箔の安定供給につながりました。現在、大手のメーカー様にも金沢箔が採用されていますが、それも工夫の積み重ねによって供給力をつけてきたことの成果と言えます。なお、この箔打ち紙の製造機は、40年たったいまでも現役で稼働しています。